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ガメラ7

雑誌ジャーナリズムの原型「噂の真相」

 まず、こんな諦めがある。いくら外部からマスコミ評論を書いても、マスコミが変わるわけがない。定年までの雇用保障で、給与をもらい、出世も視野に入れている人間に響くわけがない。自らは安全地帯にいて、遠吠えするくらいなら、自分で媒体を立ち上げろ。その通り。というわけで、今回の原稿が最後のものとなる。

こんな男もいる。尊敬してやまない亡き岡留安則。「それなら、オレがスクープのあり方を教えてやろう」と「噂の真相」を79年に創刊した。東京新宿3丁目、ゴールデン街近くの雑居ビルがその編集部。総勢7人で、あらゆるスキャンダルを追いかけ、名誉毀損訴訟もものともせず、身体を張った。岡留はノー天気にイケイケドンドンとスキャンダルを楽しむタイプで、物事を全く悪い方向に考えず、突き進む。岡留ひとりの取材費は月200~300万だったという。トップがこうだから、「報」「連」「相」などの管理職場とは程遠く、すべてにアバウト、取材費の使途にもうるさくない。遅刻、中途抜け出しは当り前の無法職場だった。しかし、とにかく売れたのである。雑誌編集のポイントはコラム。筒井康隆の「狂犬楼の逆襲」、田中康夫の「ペログリ日記」、斉藤美奈子の「性差万別」などだが、原稿料は相当額払っていた。加えて各ページ下に吉行淳之介が名付けた1行スキャンダルがある。これが面白く、この1行に多くの有名人が怯えた。これが売れないわけがなく、権力にとってこれほど厄介な存在はなかった。権力に立ち向かうにはこれほどのアナーキーさが必要。四角四面では進まない、つかんで走る感じで、自らの嗅覚を信じるしかない。訴訟に耐えるタフさと損害賠償のカネも用意しておく必要がある。

週刊文春もこの系譜になるが、ちょっと格好良すぎる。四谷の文春ビルに何度か入ったことはあるが、背広にネクタイ姿が多く、金融機関か商社という雰囲気。煙草くわえたトップ屋が競馬予想紙を小脇にしているイメージではない。ともあれ、河井法務大臣夫妻を追い詰めたのは週刊文春。その取材は7班体制で、デスク1人に記者7人、総勢59人と聞く。最大の売りがスクープというのだから、そこにヒトとカネを惜しみなく投入しなければならない。取材費が自分の裁量で使えるのかどうか。その見極めをデスクがやるのだが、そのレベルが雑誌の決め手になる。いわくいいがたい編集文化だ。元編集長・新谷学の「週刊文春 編集長の仕事術」(ダイヤモンド社刊)はその絶妙の難しさを語っている。

富山で「噂の真相」とやま版の創刊を想像してみた。やはりネットにならざるを得ない。NGO法人「ワセダクロニカル」が取り敢えずのイメージだが、スタジオだけがある「ウワマテレビ」でもいい。立ち上がりの資本金は1000万円はほしいが、500万でも何とか。年会費1万円で1000人が採算ライン。デスクには敏腕女性で、彼女だけが年俸500万円。フリーランスの記者は7人だが、無給で取材実費のみ。ということは年金受給者に限定されるかもしれないがやむを得ない。若者ジャーナリストの登竜門であってもいい。この程度なら、この閉塞状況だ。活路を見出すべくやってみようというところが出てくるかもしれない。

 更に想像だ。「噂の真相」とやま版創刊号は「富山県知事選特集」。見出しは「新田氏、田舎芝居からイノベーション的豹変」。ある日の街頭演説は鬼気迫るものとなった。「みなさん、今日からひとりで選挙戦に立ち向かうことを決意しました。自民県連の推薦を求めて、入党したのですが取り下げます。正真正銘の無所属で、孤立無援であっても、立候補した責任を全うしていきます。もちろん選挙資金はすべて自己資金でまかない、これまで協力してもらった多くの人に、助力はお断りしたいと申し入れました。本当に県民の側に立った鮮明な選択肢を提示します。ハコモノ政策のすべてをゼロベースで見直すということです。利賀ダムも例外ではありません。私が掲げるイノベーションは、みなさんのニーズを把握し、その未来予測もやって、持続可能なのかどうか、これを徹底して行うものです。企業の設備投資と同様、減価償却の考え方も導入します。高齢化及び人口減少は予想以上のスピードで進み、あらゆるものが陳腐化するリスクが立ちはだかっています。そして、コロナは大きく経済においても、生活においても否応なく大きな変革を迫っています。その対応こそ、この選挙戦の大きなテーマです。その分野で自分の培ってきたすべてを駆使して、考え尽くします。世代の感性の違い、官民のセンスの違いをみてください。

もうひとつ、付け加えます。負け惜しみではなく、自民県連の推薦を受けていたら、ロボットのような知事になっていたでしょう。息苦しい戦前と変わりない、党議拘束でしばる自民圧倒支配のゆがみに挑戦します。こうした時代錯誤と戦えるというのも、私の宿命と思い定めました」。

 これほどのメイクドラマを引き出すジャーナリストが存在してもいい。それでは、さようなら。短い期間でしたがお付き合いありがとうございました。

(6月Opiion/文責: 甲田克志)

1996年1月号「噂の真相」表紙等


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