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富山市のコンパクトシティ政策を新聞各紙の切り口から考える(その2)

                             田尻 繁


 ニュースレターvol.16に掲載した、「富山市のコンパクトシティ政策を新聞各紙の切口から考える(その1)」、

1,コンパクトシティ政策はトリクルダウンか

2,ライトレールと南北接続は「森氏のレガシー(政治的遺産)」より続く。


3,ハコモノを作っても人通りは戻らない中心市街地……(北日本新聞)(北陸中日新聞)


 北日本新聞は4月8日に「新幹線開業で開発続々」と富山駅前周辺のホテル建設ラッシュを掲載。さらに総曲輪、中央通り、西町などもくわえ「再開発が進んで中心市街地の人口は増加し、地価も上昇。…市税収入も増え、2019年度は740億円に。市町村合併時の2005年より83億円多く、新市誕生後最大になった」と述べる一方で、「平日の歩行者通行量調査によると、2018年の総曲輪周辺は30年前の半分に減った」と掲載。

 果たしてここでいう市税収入増は新幹線開業や税金投入での再開発による一過性のものではないのか。通行量の減少こそ大きな懸念材料だ。

 北陸中日新聞は8日に「再開発 恩恵は限定的」の見出しで「市は国の補助金をフル活用し…『総曲輪フェリオ』など10ヶ所余りの大型再開発を後押し……しかし、肝心な商店街の人通りは戻らなかった…総曲輪、中央通り、西町の空き店舗率は約2割弱のまま。特に中央通りは厳しく、休日でも歩行者はまばら……」「男性経営者は『ハコモノを作って一見きれいになったはいいが、いまだシャッターを閉めた店が目立ち、生きた街になっていない。行政は、支援を必要とする小規模事業者を無視している』と嘆く……」と鋭く実態を取材している。


           北日本新聞4月8日(上)、北陸中日新聞(下)

4、各紙が報じる周辺部の実態…(北日本)(読売)(朝日)(北陸中日)


 北日本新聞は9日に「地域の拠点化 道半ば」「駅を核にまち集約」の見出しで水橋地区が「ハコモノ」(水橋会館)の建設に期待していることを掲載。14日には「『地域の核』周辺部不安」「児童生徒40年で半減」の見出しで少子化による小中学校の統合再編計画で「大沢野の学校に統合されれば、バスで1時間かかる子どもが現れる。地域から出ていく家族が増えるだろう」という細入自治会連合会長の不安を載せている。

 読売新聞は連載特集「県都の課題」で7日に「学びの場 少子化の波」「小中再編一貫教育へ」の見出しで、水橋地区の9年制の義務教育学校の検討を掲載。さらに同紙は8日に「進むインフラ老朽化」「維持費増 廃橋検討も」で旧大山町の常願寺川にかかる瓶岩橋の「廃止撤去」という市の方針に地元が猛反発していることを取り上げ、「廃橋は『山に住むな』と言っているようなもの。われわれの声は届きにくい」という地元住民の嘆きの声を掲載。朝日新聞も10日に瓶岩橋廃橋問題を取り上げ「橋は災害時の避難ルートとして確保しなければならない。市は住民の暮らしより財政を重視している」と大山地区自治振興会連合会会長の発言を掲載。

 北陸中日新聞は10日に「拠点統廃合 心は離れ」を掲載。旧細入村猪谷の観光スポット「常虹の滝」への遊歩道ののり面が2014年の大雨で崩壊したが市は「予算は出せない」と手つかずのまま。「(2005年に市町村)合併しなければ、こんな状況にはならなかったのでは」との地元の「常虹の滝を守る会」の声を紹介している。さらにコンパクトシティ政策による中心部の手厚い予算配分と旧町村部を中心に(大沢野、大山、水橋での)文化会館や体育館の統廃合に焦点をあて、今後の「高齢化による財政負担と行政の効率化」と「地域コミュニティーを守る」という相反する懸案への対処を新市長の課題と結んでいる。


           朝日新聞4月10日

           北日本新聞4月9日

           読売新聞4月7日

           北陸中日新聞4月10日


5,コンパクトシティ政策は「今だけ、ここだけ、自分だけ」の新自由主義の政策なのか


 百貨店や大型スーパーの売場面積や営業時間、休日日数などを制限することで周辺中小小売業者を保護し消費者の利益を確保しようとした「大規模小売店舗法(大店法)」が1991年の日米構造協議以降米国の強い圧力で年々骨抜きにされ、ついに同法は1998年に廃止された。日本中の地方都市の郊外には外資もふくめ大型店が乱立し、街中の商店街が急速にシャッター街と化した。大店法に代わって「中心市街地活性化法」がつくられ、そのモデル都市として2007年2月に全国で最初に国交省が認定したのが青森市と富山市であった。森前市長のコンパクトシテイ政策とはこの「中心市街地活性化基本計画」の政策である。

近年、NHKは青森市の中心市街地活性化事業の失敗を特集番組で報道した。青函連絡船の廃止で廃れた市中心部にハコモノを建て賑わいの復活を目指したが賑わいは戻らず、郊外の大型店は賑わうという内容。中心市街地活性化事業の認定をうけた多くの地方都市の現状ではないだろうか。

 富山市のコンパクトシティ政策が「森氏のレガシー」(北日本新聞)「全国に誇るコンパクトシティ政策」(富山新聞)などといわれるのは、中心市街地活性化事業が路面電車を中心とした公共交通整備事業と新幹線建設にともなう富山駅付近連続立体交差事業と結びついて全国の注目を浴びたからだ。総曲輪、中央通り、西町の中心市街地活性化事業に限っていえば「青森市の二の舞」の道を進んでいるのではないであろうか。

 森氏は北日本新聞の4月21日号の退任インタビューで、石井隆一前知事を痛烈に批判している。しかし富山駅付近連続立体交差事業の事業主体は富山市ではなく富山県である。2千300億円超の新幹線建設費地元負担金をどう捻出するかは、石井県政16年間の最大の困難な課題であったが、見事に克服している。新幹線建設と連続立体交差がなかったなら、ライトレールも市内環状線も南北接続もなかったであろう。石井前知事の行政手腕を軽く見ることはできない。

 新しく誕生した新田県政と藤井市政のもとで、シャッター街のままの中心市街地と過疎化・少子化・高齢化の周辺の旧町村部が継続するとすれば、コンパクトシティ政策は「今だけ、ここだけ、自分だけ」の新自由主義の政策だったといわなければならない。そうならないことを、心より期待する。

           北日本新聞4月21日


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