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本紙「沖縄のいま」の筆者が     読売新聞連載「沖縄の今」(1~10)を読む

                               小原悦子


 6月17日、日米両政府が沖縄返還協定に調印して50年を迎えた。最大の発行部数を誇る全国紙は、「返還合意50年 沖縄の今」と題して10回の連載を組んだ。

沖縄の米軍基地、経済、「対中『最前線』」としての位置づけ、保革政治状況など切り口は多岐にわたり、最終回を在沖米軍四軍調整官ハーマン・クラーディ―氏へのインタビューで締めくくった。

 記事は、近く示される辺野古設計変更への沖縄県の判断や今期で期限を迎える沖縄振興特別措置法、来年の知事選などを見据えた連載と思われる。

 気になったのは、沖縄の基地返還が進まない要因の一つとして反対運動があるとし、「対中『最前線』」として沖縄の米軍基地の重要性を強調、海兵隊の訓練は強化しているが地元の負担軽減に努力している、と全体を通して政権側から見た「沖縄の今」を述べている点だ。

 「復帰」によって沖縄の人びとが求めたのは「基地のない平和な沖縄」だ。しかし、米軍基地を残したままの復帰だった。


           読売新聞「沖縄の今」⑴(6月16日)

           読売新聞「沖縄の今」⑵(6月17日)

             読売新聞「沖縄の今」⑼(6月30日)


なぜ、沖縄の基地返還が進まないか?


 1996年の「沖縄に関する特別行動委員会(SACO)最終報告」では、普天間飛行場を含む11施設、5002haの整理縮小が謳われた。その後2006年「再編実施のための日米のロードマップ」を経て、2013年4月「沖縄における在日米軍施設・区域に関する統合計画」(通称「嘉手納より南の6施設返還計画」)が発表された。約1048haを超える土地の返還計画だが、現在までに返還されたのは約72haに過ぎない。返還予定地は3つの区分に分けられている。Ⅰ必要な手続きの完了後に速やかに返還可能となる区域(72ha)、Ⅱ沖縄において代替施設が提供され次第、返還可能となる区域(834ha)、Ⅲ米海兵隊の兵力が沖縄から日本国外の場所に移転するに伴い、返還可能となる区域(142ha)。圧倒的多くが沖縄において代替施設提供を条件とする。これが、返還が進まない最大の理由だ。

 返還が進まないのは反対運動が要因だとするならば、なぜ反対運動が起きるのかを考える必要がある。


★普天間飛行場


 例えば、普天間飛行場。481haの全面返還だが、辺野古のキャンプ・シュワブへの移設が条件だ。その他にも、緊急時使用のための空自新田原基地と空自築城基地の施設整備、長い滑走路のある民間施設の確保、KC130飛行隊の岩国基地への移転など全部で8条件が付いている。沖縄では、長い滑走路の使用は那覇空港を指すのではと危惧されている。那覇空港は、自衛隊の緊急発進が増え、民間機の離発着に影響しているとはいえ、第2滑走路ができたことでアジアへの航空貨物のハブ空港として期待されている。

 辺野古の代替施設には、揚陸艦が着岸できる護岸や弾薬搭載エリアなど、普天間基地にはない機能が加わる。隣接する辺野古弾薬庫には復帰前、核が置かれていた。復帰に際し、緊急時に核を持ち込む密約が日米間で交わされている。米国は第1列島線上に射程500km以上の地上発射型の中距離ミサイル配備を計画している。中距離ミサイルには核搭載が可能だ。普天間基地の辺野古「移設」は、明らかに機能強化になる。

 その上に、大浦湾に広がる軟弱地盤。改良工事を強行したとしても、政府の試算でさえ、工期は今後12年を要する。辺野古移設にしがみつく政策こそが返還を遅らせている。


★北部訓練場


 SACO最終合意で、北部訓練場の過半の返還の条件として、海へのアクセスと水域の提供、残余の部分へのヘリパットの移設が決まった。

 2013年の米「戦略展望2025」(米海兵隊が太平洋地域の基地運用計画についてまとめた報告書)では、北部訓練場について、「最大で約51%の使用不可能な北部演習場を日本政府に返還する間に、限られた土地を最大限活用する訓練場が新たに開発される」と明記している。

 2016年県外からの警察力を動員して、高江集落を囲むようにヘリパッドが新設された。北部訓練場の残余(約3500ha)には既存のヘリパッド15か所と新設の6カ所、計21カ所のヘリパッドが集中し、高江周辺では以前より過密になった。住宅からわずか400mのところにヘリパッドを造られて黙っている市民などいない。2017年10月には、普天間所属のCH53E大型ヘリが高江の牧草地に不時着・炎上する事故が起きた。

 高江ではオスプレイ等の超低空飛行、つり下げ訓練、夜間飛行が続いている。低周波音で体調を崩し、やむを得ず転居する住民も出ている。2016年当時の高江の人口は約140人だったが、2020年1月には111人、55世帯(沖縄県HP)と減少している。高江住民にとっては「負担軽減」ではなかった。


軍事力強化でいいのか


 在沖米隊はアフガン戦争、イラク戦争と米国の「対テロ戦争」に出撃。そのたびに沖縄では緊張が高まり、米軍関連の事故・事件が増えた。2004年8月、普天間所属のCH53D大型輸送ヘリが沖縄国際大へ墜落した事故は、イラク出撃前の整備を急ぐあまりの整備不良が原因だった。在沖米軍は米国の都合に基づいて運用されているにすぎない。

 2015年改定の「日米ガイドライン」では、日本に対する武力攻撃が発生した場合は自衛隊と米軍は共同作戦を実施するが、日本防衛の主体は自衛隊であり、米軍は支援すると規定している。

 日米の「対中国最前線」と位置付けられ、九州から八重山まで軍備増強が進んでいる。軍事力強化で日本とアジアの平和は実現できるのか。そこに生活する人々の命は守られるのか。疑問は尽きない。本土防衛の時間稼ぎの「捨て石」にした沖縄戦を想起する。「基地のない平和な沖縄」が遠のく現状だ。



(読売新聞の「返還合意50年 沖縄の今」は⑴~⑽まで10回、2021年6月16日から7月1日にかけて連載された)

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