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朝日町:竹田恒泰講演会中止報道

更新日:2020年2月1日

       事実を明らかにすること

    ~個人が発信できる時代でも、公的機関への取材の役割は既存メディア~


 あいちトリエンナーレ「表現の不自由展・その後」がガソリンをまくという妨害予告によって一時的に非公開になった影響か、その後各地の展覧会や映画祭で抗議や自主規制が起きて中止になったケースもあった。富山県朝日町での講演中止の一連の報道について考える。

 朝日町教育委員会は、2019年11月13日に中高連携推進事業として泊高校・朝日中学校生徒計約五百五十人と住民らを対象に竹田恒泰氏の教育講演会を企画した。演題は「日本はなぜ世界で一番人気があるのか」。それに対して町民その他から意見や中止要請などが相次ぎ、講演会は中止された。


●   講演会告知から町議会での報告まで

1日 町広報誌や町内回覧にて講演会を告知

2日 町公式ホームページに掲載

以降 講演会について電話、FAX、メールで多数の意見や抗議が届く。中に「脅迫に類する妨害予告」があり、入善署に連絡

7日 抗議を受け、講演会に生徒は参加させず、一般住民だけを対象にすることを決める

10日 脅迫行為による妨害予告があったとされる

11日 「会場の安全確保に支障がある」との判断で講演会の中止を決定。入善署に被害届提出 12日 竹田氏は公式ツイッターで「ガソリンをまくとの非通知電話が役場にあった」と説明。

   北日本新聞は、関係者によるとして上記と同内容の記事を掲載。生徒の活動発表会を別会場(高校)に移す

18日 町教委は、講演会を中止した経緯を町議会全員協議会で報告したが、「警察が捜査中」として詳細は明らかにしていない

  ※ 教委自身が経過を明らかにしていないため、ずれはお許し願いたい。


●   誰がどのような目的で竹田恒泰氏の講演を企画したのか

 町教委は、両校の校長、教頭、教務主任でつくる中高連携推進事業運営委員会で講師その他を決めたという。では、どのような趣旨で竹田氏を選んだのであろう。竹田氏は憲法違反ともいわれる教育勅語を教育に取り入れることを主張する人物として著名である。教委は教育勅語に言及しないように伝えているというが、竹田氏や竹田研究会、そのバックアップ組織に関しては多々論じられている。運営委員会は経過も含めて明らかにする責任がある。メディアにはこれを促す取材を期待する。


●  講師竹田氏についての情報

 日本では、報道される人物の性別や年齢、職業などの属性を示すことが一般的である。だが、憲法14条で「華族その他の貴族の制度はこれを認めない」とされる現在、明治天皇の「やしゃご」を表記することは適当であろうか。そもそもチラシの竹田氏はそれを売りにしていて、チラシの略歴にも「旧皇族・竹田家に生まれる。明治天皇の玄孫にあたる」とあるが、再考すべきであろう。

 竹田氏自身については、教育講演の講師として相応しからざる行為や発言が多々あり、その点で意見や抗議が寄せられたと思われる。市民の声をネットから拾ってみる。

* 竹田氏の教育勅語や軍国主義を推進するような主張は、日本国憲法に抵触する。

* 在日コリアンに対するヘイト発言(2013年10月)や自国優越主義的な発言が多い。

* 政府が公式に認めているにもかかわらず、日本軍「慰安婦」問題では被害者の存在を否定する。

* 原爆被害に関して無知にもかかわらず、被爆者を「反日」と中傷し、被爆者の声を聞くことは「反日教育」と主張し、「反日」を植えつける平和教育はやめた方がいいと主張する。

 以上のような差別的な発言があることから、

* 任意団体の主催であれば無視するが、町主催の教育講演会で公金(100万円)を使ってこのような講師を呼ぶことは適切ではない。

* 町主催の講演会で講師とすることで、竹田氏のような復古的な考えを肯定することになる。


●   抗議はテロにつながる不寛容ではない

 11月15日付北陸中日新聞「越中春秋」での見出し「講演会中止」記事について考える。差別的、歴史修正主義的主張を繰り返すことで有名な人物を公金を使って教育講演会の講師としたところに批判が集中したことを、記者は把握していたのであろうか。

 まずは、意見を届けるのは対立ではなく、共に考えるためであり、抗議であれ意見であれ、発信することの正当性を確認したい。当然賛否両論あると思われるが、記者が言及しているのは妨害予告のみであろう。脅迫のような暴力は許されないが、公正な気持ちからの抗議と同一視してはならない。それらをひっくるめて「自分の考えと相いれない考えを脅しや暴力で封じ込めようとする、民主主義に敵対する」「他人の自由を奪うのは許されない」と断じているが、意見を述べ、抗議することは民主主義の基本であり、テロにつながる不寛容とはいえない。

●   事実を検証するために

 個人が自分の意見をネットで発信できる時代になった。ネット情報は正しいとは限らないといわれる一方、個人でも発信可能で、竹田氏発信のものをはじめとして情報が飛び交っている。その一方、既存メディアは新聞掲載日から推測するに、個々に取材している感があり、刻々と変化する経過がよくわからない。例えば、ガソリンをまくという強迫があったという報道では、竹田氏のYou-tube映像と北日本新聞の関係者によればという記事があるだけで、あとは捜査中との理由で闇の中である。これでは講演中止に関する状況が見えてこない。再発を防止の対策が取れないということでもある。

 脅しがあったから安全を期して中止すれば解決という問題ではなく、事実の検証が必要である。町当局は町議会で経過を説明したようだが、報道各社は結束して朝日町に記者会見などを求め、市民に明らかにするべきではなかったのか。民主主義の根幹にかかわることでもあり、これからでも遅くはない。率先して当局に質問し、事実を明らかにして報道してもらいたい。

                   ( 12月Opinion/ 12月17日/会員 堀江節子)

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