「こんなの、何が面白いんだろ?全然やる気になんない」
同僚の女性スタッフがふと漏らした。
当時、私は某在京キー局のワイドショーのスタッフとして働いていた。いわゆるADだ。15年程前のことである。
彼女は芸能班にいた。扱うネタは芸能関係全般。有名芸能人の結婚や離婚、熱憂、映画や舞台の宣伝、訃報まで、芸能界といわれる世界の出来事を電波に乗せるのが主な仕事だ。ちなみに私は、政治や事件などを主に扱っていた。政治や事件などと言っても、テレビ局では主だったニュースは報道部の管轄だ。制作部管轄のワイドショーは、政治や事件の周辺のこと、例えば、汚職政治家の金まわりと女性関係とか、凶悪犯罪の犯人がいかに歪んだ過去を持っていたか、とかを扱う。とはいえ、こうしたニュースに対して本気で真実を明らかにしよう、などといった思想はない。ただ単に目の前に現れた素材を面白く処理し、電波に乗せてお茶の間に届けるだけだ。
彼女は続ける。
「芸能人の不倫とか熱愛なんて、その人の勝手じゃん。全然見たくもないけど見る人がいるんだよね。」
私も似たような思いをいだいたことがある。
以前、某相撲部屋の親方が逝去した。その親力には、二人の息子がおり、二人とも関取であつた。その息子二人の仲が悪く、葬儀の場でも同席しなかったことが話題になった。私の番組でも、毎日のようにそのネタを取り上げていた。いつごろから不仲になったのかを当時の相撲部屋関係者に聞きに行ったり、兄の経営するちゃんこ料理屋の鍋を紹介したりと、自分たちでも訳が分からなくなるような事柄を電波に流し続け、1か月くらい、話題を持たせた。それでも、ある程度の視聴率はとれていた。
テレビ番組は、視聴率が唯一の成績表である。どんなにくだらないことであっても、数字がよければ優秀な番組なのである。現在、広告媒体としての効果はかなり薄まっているようだが、スポンサーは視聴者数の多い番組にCMを出したいのは当たり前のことで、視聴率の高い番組を制作してそれに応えるのがテレビマンの仕事でもある。そのため、制作側がいくらつまらないと思っても、人々の多くがそれを観ている以上、制作し続けることになる。
それは、民放に限ったことでなく、NHKも同様だと思う。私自身はNHKの番組に携わったことはないから出過ぎたことは言えないが、放送受信料を国民から徴収して運営している以上、スポンサーである国民に観てもらえない番組は制作できないはすだ。
昨今NHKの番組が民放化しているとの批判もあるが、それは、私たち自身の姿が鏡のように反射しているだけなのかもしれない。 (元番組制作スタッフ M)
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