~富山市長選挙「自民党候補者」予備選と地方紙・その2~
はじめに
選挙におけるメディアの役割は大きい。不公平・不公正と思われる選挙報道を放置しておいては、選挙民は正しい選択ができない。富山市長選挙「自民党候補者」予備選について掲載紙を調査して当会の「Newsletter Citizen’s eyes vol.13」で公表した。
今号では、新聞社と立候補予定者4名にアンケートをお願いしたので、その報告をしたい。早急に回答をお願いしたのは、他党(別の政治団体を設立している場合もある)の候補者の意見から学び、必要であればすぐにでも改善してほしいからだ。政治不信が起き、政治離れが進めば、民主主義が機能不全に陥る。
北日本新聞からは、真っ先に編集局長から回答をいただいた。さらに、4人の立候補予定者のうち3名と所属政党(こちらの手違いが原因)から回答があった。感謝したい。
予備選の背景にある状況を簡単に説明すると、半年前に行われた
富山県知事選で自民党推薦候補が敗れ、推薦の決定方法が強引だという批判があった。一方、この保守分裂選挙と女性候補の出現により選択肢が広がり、有権者の意識が変化を求め、投票率も上がったといわれる。また、富山市議会においては、政治活動費の不正使用で議員ひいては議会の信用は失墜したままである。
こうしたなかでの富山市長選挙である。
*予備選報道の何を問題と考えたか
1.予備選への関心が高いこと、また市長候補となることから情報は必要かつ重要ではあるが、一政党内のことにもかかわらず、記事がかなりの分量で掲載され、すでに立候補を表明している他の候補との公平さを欠いている。
2.当県は自民党王国といわれる。国会議員も一人を除いて自民党であり、いきおい自民党関連の記事が多くなる。しかし、メディアは各政党・議員や立候補予定者等についても十分な情報を掲載しなければ、政治における多様性は担保されず、民主主義は保たれない。
3.自民党推薦立候補者決定後に、他の立候補者の主張を掲載し、他立候補予定者が被った不利益を回復する是正措置をしていない。
4.読者は、記事の大きさや位置、写真、回数などによって記事の価値を読み取るので、配慮が必要である。
5.予備選報道によって掲載されなかった政治面の情報もあるのではないか。また、富山市民以外には特別に重要ではなく、他自治体の購読者は不満を持っている。
6.自民党国会議員や地方議員、市長などの意見のみを掲載しているが、メディアは独自に予備選に投票権を持たない市民を取材してもいいのではないか。とくに、女性、障害者、生活困窮者などマイノリティの意見は重要であると考える。
*北日本新聞編集局長の回答
1.ニュースレターvol.13に載せた「富山市長選挙『自民党候補者』予備選と地方紙」の記事について、どのような感想をもたれましたか。
多様な読み方、受け止め方があることを改めて認識させていただきました。今後の編集 活動の参考にさせていただきたいと思います。
2.今回の特定政党の予備選報道が1月5日から2月3日までの16日間にわたって、多い日(2月1日)には3ページを使って報道されました。特定政党内の予備選について市民の関心は高く、将来の市長になる可能性のある候補者が含まれ、報道は当然だと考えますが、
①政党紙ではなく一般紙において繰り返し報道することの意味や影響をどのように考えておられますか。
自民党は県内政界の最大勢力であり、富山市議会でも多数を占めています。その方向性は市長選の流れを大きく左右しますし、市の最高権力者である市長を選ぶ課程や動向を追うことは権力監視の点でも重要だと考えています。
②これにより、特定の政党に肯定的な評価がなされ、候補者の知名度があがり、市長選に限っても有利でないかと考えられませんか。
候補者の考えを詳しく伝えることで、賛同する市民がいる一方、「その考えには相容れない」と思う人もいます。必ずしも有利になるとは考えません。さらには、特定の政党のみがこうした予備選を行っているのが現状です。予備選によって出たい人が出られない結果を生むことに嫌悪感を抱く人も少なくないでしょう。読者の皆さんには多様な受け止め方があり、特定の政党の利益に結びつくとは思いません。
③報道における新聞社と政党の関係をどのように考えておられますか。
「新聞の役割」の一つが権力監視であり、政党はその対象だと考えます。
3.今回の北日本新聞の富山市長選挙『自民党候補者』予備選報道について、貴社内ではどのように評価されていますか。また改善点があるとすればどのような点があるとお考えですか。
自社の評価を外部に公表することは、控えさせていただきます。ただ、有権者に多くの情報を提供し、政治参加へのきっかけにしてもらいたい思いは一貫しています。
4.一般紙(新聞・テレビ)が一般の購読者・視聴者である市民、有権者に、選挙時を含めて有益で適正な政治情報を伝えるためにどのようなことを踏まえるべきだと思いますか、あるいはどのような報道が望まれますか。また、貴紙はマニュアルやガイドラインをお持ちでしょうか。
選挙は民主主義の根幹となる重要なものです。さまざまな動きを、正確に、きめ細かく、かつ多くの読者に関心を持って読んでもらえるよう報道していきたいと考えています。報道によって有権者に興味と関心を高めてもらい、投票行動を通じて政治参加をしていただきたいと思います。マニュアル・ガイドラインは一定ありますが、一律では判断できないケースが多いです。議論を重ね、公正な報道と考えるありようを選択しています。
*自民党以外の立候補予定者(以下、他党立候補予定者)からの回答のまとめ
(質問は北日本新聞のマニュアルを除いてほぼ同じ)
1.自民党内の問題であり、今回のような一般紙において大々的に取り上げることは選挙の公平性を歪める危険性をはらみ、「新聞倫理綱領」の「正確と公正」から逸脱している。地方紙が公平中立な報道を行い、読者に信頼されることを願う。
2.①メディアが権力を監視する役割を果たさず、あたかも予備選で決まった候補が市長になるかのような印象を市民にもたせた。中立性を侵しかねない。
②特定の政党に肯定的な評価がなされ、候補者の知名度があがり、市長選に限っても有利。
③新聞社の本来の使命を逸脱し、政権与党に寄り添った報道だった。緊張感を持った関係が望ましく、権力への迎合はメディアの自殺行為である。
3.選ばれなかった5名を含め、 十分に名を売ることができた。予備選立候補者の政策・主張を発表されたまま無批判に垂れ流すようなことはあってはならない。
4.たんなる「バランス報道」ではなく、選挙前にも公平中立という観点から各政党のイベントも同じ質と分量で報道すべき。
*新聞社と他党候補者による回答から
新聞社は民主主義をリードする重要な役割を持っているという自負をもって予備選報道をおこなっているが、他党の立候補者予定者の認識とは大きな隔たりがあることがわかった。他党立候補予定者は、一政党内部に関わることを一般紙において大々的に取り上げることは選挙の公平性を歪める危険性をはらんでいると回答している。自民党推薦候補者の回答がないのは残念である。
まず、新聞社は、候補者の考えを詳細に伝えることは権力監視になるとしているが、批判的視点がなければ権力を監視できない。また、詳細な報道は読者の判断材料になるとするが、紙面の内容を肯定的に受け取る人は多い。その結果、他党立候補予定者は、6名の予備選立候補者全員が十分ポジティブに名前を印象付けることができ、予備選で決まった候補者が市長になるかのような印象を与えたと考えている。こうして、政権与党に属する候補者が優位性を確保した点で、権力に寄り添った報道だったとする。したがって、公平中立という観点から他の政党、候補者も同じ質と分量で報道すべきであるという他党立候補予定者3名の主張は理解できる。
いずれの立候補予定者も、地方政治における新聞の役割は大きいことを認め、新聞社に偏りのない公平な報道を求め、読者に信頼されることを望み、政権与党への迎合が新聞離れを加速しないか危惧している。当会内でも、他党の立候補者とほぼ同様の意見が出た。そのため、新聞社に意見交換を申し入れたが、すでに回答を出していること、読者からの苦情では話し合いを受け入れていないこと、また受け入れると記者の委縮につながることなどを理由として、紙面を通じて新聞社の考えを理解してほしいとして、応じられない旨の返答をもらった。将来意見交換ができれば幸いである。
*地方紙への期待
北日本新聞の発行部数は22万部で県内全新聞発行部数の64%あり、県内での政治・社会への影響力は大きい。県内メディアのリーディングペーパーとして他紙以上に各所に配慮されることを期待している。
今回の予備選報道について、知り合い10人ほどに聞いてみたが、残念なことに関心がない人が多い。北日本新聞を購読していて予備選を知ってはいても、きちんと読んでいない。富山市外の人は関心がなければ読まない。「ネットも含めて全国紙を3紙取っているが、地方紙は取ってない。国政には関心があるが、地方政治には関心がない」という人もいた。政治離れと新聞離れはリンクしているのだろうか。
現在、高岡市でも市長予備選が行われ、詳細な報道がある。高岡市の政治状況を知らないが、本当に必要な情報なのかと思う内容が多い。投票権がないのだから読まなくてもいいのだろうか。ラジオやテレビは勝手に耳に入ってくるが、新聞は購読しているので、やはり限られた紙面だから、毎朝読みがいのある記事が欲しい。
最初に書いたように、市民の政治意識は変化している。かつては企業や労働組合が後援会組織をつくって票をまとめたものだが、今は政治活動と選挙活動が切れ目なく行われ、SNSを駆使し、大量の幟旗や政策演説会の看板を幹線沿いに立てて知名度を上げるイメージ選挙になっている。党の推薦もさることながら、潤沢な資金と人員を確保できなければ立候補は難しい。
多様性が政治を変えるといわれる。障害のある人やLGBTなどの少数者が国会議員にえらばれる時代でもある。富山でも、そうした人たちが議員になれば、政治や政治の概念を変えていくに違いない。メディアが声の小さい人たちを取り上げなければ、政治はいつまでも変わらない。
とりあえずは、メディアが中心になって政見放送や討論会などの開催を期待するが、決められた質問だけでなく、候補者同士が丁々発止と質問しあうような緊張感のある運営を願っている。 (文責:堀江節子)
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