11月5日全国知事会(会長・飯泉嘉門徳島県知事)はウェブ会議を開き、「米軍基地負担に関する提言」など14の議題を決議した。
全国知事会は2018年7月に最初の「米軍基地負担に関する提言」を全会一致で議決し、国に要請している。今回は、昨年7月の会議において、米軍機による低空飛行訓練について複数の知事から問題提起があったことから、再度の提言となった。
2018年の提言に至るには2年間の経緯があった。全国知事会は、沖縄県など米軍基地所在地の知事からの要望により、2016年11月に「米軍基地負担に関する研究会」を設置した。計6回の研究会では、米軍基地負担の現状と負担軽減および日米地位協定をテーマに、資料に基づき意見交換を行うとともに有識者からヒアリングを行うなどして共通理解を深めた。
沖縄県は2017年9月、独自に「日米地位協定の見直しに関する要請」書を政府に提出している。要請書では日米地位協定の28の条文のうち11の条文について具体的に現状と課題、沖縄県の考え方、沖縄県の要請等を提示している。その後、ドイツ、イタリア、ベルギー、イギリスにおける地位協定の実態調査をし、「他国地位協定調査報告書<欧州編>」をまとめ公表した。2019年にはオーストラリアの調査を実施し、全国知事会に報告書を配布。今回も知事会提言に際し、沖縄県からフィリピンの地位協定調査報告を配布した。これらの調査報告はすべて沖縄県のHP「地位協定ポータルサイト」で公表されている。各国とも米軍に対して自国の国内法を適用していることが重要だ。他国地位協定調査は本来ならば日本政府が実施し、広く国民に知らせるべきものである。しかし、政府の不作為により、米軍基地の過剰な負担を強いられている沖縄県が実施している。
11月5日の全国知事会提言は以下の通り。
1、飛行訓練など基地の外における米軍の演習・訓練については、必要最小限とすること
米軍機による低空飛行訓練等については、国の責任で騒音測定器を増やすなど必要な実態調査を行うとともに、訓練ルートや訓練が行われる時期について速やかかつ詳細な事前情報提供を必ず行い、人口密集地域等の上空の飛行回避、深夜、早朝など住民への影響が大きい時間帯や土曜日、日曜日、祝日等および重要な地元行事や学校行事等を避けるなど、関係自治体や地域住民の不安を払拭するよう、十分な配慮を行うこと
また、米軍機による事故が発生した場合には、当該事故に関わる情報を関係自治体へ速やかに提供するとともに、原因を早期に究明し、公表すること
2、日米地位協定を抜本的に見直し、米軍機の飛行について最低安全高度を定める航空法令や航空機騒音の環境基準を定める環境法令などの国内法を原則として米軍にも適用させることや、事件・事故時の自治体職員の迅速かつ円滑な立ち入りの保障などを明記すること
3、米軍人等による事件・事故に対し、具体的かつ実効的な防止策を提示し、継続的に取り組みを進めること
また、飛行場周辺における航空機騒音規制措置については、周辺住民の実質的な負担軽減が図られるための運用を行うとともに、同措置の実施に伴う効果について検証を行うこと
4、施設ごとに必要性や使用状況等を点検した上で、基地の整理・縮小・返還を積極的に促進すること
5、在日米軍における新型コロナウイルス感染症防止対策については、日米両国の責任において、引き続き徹底の強化を図り、常に最善の措置を取るよう、緊密に連携して取り組むとともに、関係自治体等への迅速かつ適切な情報提供に努めること (以上、全国知事会提言は琉球新報記事より)
上記5項目はどれも当然のことを述べている。当たり前のことを自治体や全国知事会が、政府に何度も要請・提言しなければならないことこそ異常だ。
米軍機の低空飛行訓練は首都圏をはじめ四国地方など全国各地で実施されている。首都圏上空の「横田空域」の問題も指摘されて久しい。米軍関係者の新型コロナ感染情報の詳細が伝えられない不安もある。
米軍基地が存在しない富山では、米軍関係の事故や事件の被害も話題にならない。しかし、だからこそ、米軍基地を押し付けられている地域の人々の被害の実態や不安を共有する必要がある。全国知事会提言は冒頭で、「在日米軍基地に関わる基地負担の状況を、基地等の所在の有無にかかわらず広く理解し、都道府県の共通理解を深めることを目的として…」と述べる。メディアには共通理解のための情報が求められる。
(12月オピニオン/文責:小原悦子)
*下の新聞記事は全国知事会の「米軍基地負担に関する提言」全文を掲載した琉球新報
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