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コロナ禍におけるメディアの役割と責任 -KNBとのキャッチボールから- 

 8月25日午後、北日本放送株式会社(KNB)報道制作局長の桐谷真吾さんと、報道制作局専任局次長でKNB News Everyのメインキャスター数家直樹さんに、テレビ局でのコロナ感染防止をテーマに1時間にわたり取材を受けていただいた。危機管理が必要なときこそ、メディアとしての理念や対応力が問われることをあらためて認識した。

 視聴者としてメディアのコロナ対応策に関心があったのは事実だが、理由は他にもあった。コロナ禍において、今年3月から密になりがちな集会や学習会などの市民活動を一定期間停止していたが、社会状況の変化に対応するため、街頭行動なども三密を避け・マスクをつけ・消毒を徹底して再開している。同時に活動を画像・映像とともにSNSで発信しているが、人権問題を標榜しているのに感染防止に取り組んでいないなどの意見が届く。画面でそのように見えることもある一方、感染防止の意識に個人差があり、「自粛警察」といわれる過剰な動きもある。これをどうクリアできるか。感染数・死者数が増えるなかでも放送を継続してきたテレビ局に聞いてみようとなり、KNBにお願いしたところ快く応じてもらった。

コロナ禍での放送局の役割をどのように考え、実施しているか。

 感染拡大が続くなか、当初よりメディアとして正確な情報、事実を伝える役割を認識し、事業・営業・放送各部門において方針を立てて取り組むことを確認し、ニュースを死守、正確な情報と事実を伝えることを第一とした。実際、4月から5月は感染拡大の不安からか、視聴者の情報を求める動きが拡大し、News Everyの視聴率は2019年16%が2020年4~5月では23%と増え、4月下旬には33%になった日もあった。

取材時、放送時の具体的対応

 社内の危機管理本部は、新情報を掲載した社内メールを機会あるごとに配信した。状況をフェーズ1~3として段階に分けて対応をマニュアル化、さらに各現場に即してルールを明文化して社全体としての取り組みを明らかにした。

感染防止には取材者と取材対象者が相互に防止に努めることが大切だ。取材時、マイクにブームを取り付けてソーシャルディスタンスを保ち、ピンマイクではなくスタンドマイクにした。子どもの日特集では「おおかみこどもの雨と雪」の細田守監督にリモートでロングインタビューを行った。スタジオでは、キャスター間に距離を取り、アクリル板を使って飛沫飛散の防止をした。

 4月末から5月末まではニュース番組を死守するために、2班体制にした。キャスター2人が交替で担当し、原稿を書く人と外部で取材する人を分け、社屋の通用口そばに場所をつくってものの遣り取りを行った。社内では、机を分散して段ボール等で仕切り、密にしない、接触しないという方針を徹底した。2班体制による人員減に対応するため、他部門にいる報道経験者や外部から応援を入れて、通常の70%の力で報道を継続することをめざした。また、日テレ系各社で対応ノウハウを交換、ラジオでは朝のパーソナリティー二人はスタジオと在宅の2カ所で放送した。富山県政記者クラブでは毎日のコロナ感染発表の映像を代表撮影とし、各社に分配するという協力体制を取った。

 こうしたKNBの取り組みの片りんを見せる事例として、富山県知事選の2候補予定者のインタビュー特集を放送した7月21日、22日の「KNBニュースエブリィ」と同24日の「ワンエフ」をあげたい。知事候補者は公人としてマスクを外す形がいいと社内で協議して二人の了解を得て、さらにインタビュアーが知事候補者とソーシャルディスタンスを保っていることを示す映像を随時差し込んだ。

市民の意見や要望への対応

 KNBへは通常、多数の意見や要望が寄せられている。そうした意見等はほぼすべてが担当者に届けられ、番組作りの参考にしている。取材活動や放送内容に瑕疵があり、第3者の権利を侵害したり、利益を損なう恐れがある場合には、速やかに連絡を取って、当事者と直接向き合って対応している。

 コロナ感染防止については、ゼロリスクを求める人はいるが、メディアとしての責任があり、バランスをとりながら進めている。

 そこで、私たちの質問への答えだが、目に見えるように防止策を取って「安心感」を出したり、「発言者の前にアクリル板を置いたりしてはどうか」という提案をもらった。市民活動も理念と方針を明確にもつことが大切だと教えられた。

 最後に2点、質問と要望をさせてもらった。

 質問「コロナ関連で、独自取材で得た情報を発信する場合の基準は何か」については、現実に行政の発表以上のことを知ることはむずかしく、仮に二次感染を防止するために有益だとしてもプライバシーを侵害する恐れ(=個人の特定)があるので、具体的にはその都度協議している。店名の公表に関しては、感染拡大防止のために行政のほうから発表することがあったという。

 感染者・家族への差別や攻撃など、人権・差別問題を掘り下げた番組の作成をお願いした。それには直接取材が必要で、被害当事者が望むかが重要となる。地方局ではエリアが狭いため個人が特定されやすいので2次被害防止に気を遣う。放送する際には取材対象者の声を変え、普段着ないようなものを着てもらって慎重に進めるとのことだ。他にも、コロナ禍と教育、SNSとヘイトなどもテーマにしてほしいと要望した。桐谷局長の「(当事者の)痛みがわかるので…」との言葉が印象的だった。

 最後になったが、ジャーナリズムを考える市民連絡会とやまのような、創設1年、ようやく歩き始めたような会に「応答」していただいたことに感謝したい。

     (取材者:大島俊夫、小原悦子、堀江節子 8月オピニオン/文責:堀江節子)




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