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《コラム》沖縄のいま⑼ ◇津堅島の畑に普天間基地所属ヘリが不時着◇

小原悦子



宅地に近い畑に不時着した米軍ヘリ=3日午前11時31分ごろ、うるま市の津堅島(小型無人機で撮影)(琉球新報2021年6月4日より)


 6月2日午後10時45分ごろ、普天間基地所属のUH1Y多用途ヘリがうるま市津堅島の民有地の畑に不時着した。現場は民家から120mの距離だった。地元紙はうるま署からの説明として、乗員は普天基地所属の5人、けが人は確認されていない、エンジン故障のためと報じた。

 UH1Y多用途ヘリは、偵察・人員輸送・対地攻撃に用いられる機種とのこと。津堅島は、中城湾の沖合、勝連半島の南東にあり、島の西側の浜辺(長さ2km)と沖合6kmが米軍提供区域になっている。提供水域では、地元の中止要請にもかかわらず、米軍のパラシュート降下訓練が度々実施される。現場から普天間基地まで約18km、7km先には米軍ホワイトビーチのヘリポートがある。事故機は7km先のヘリポートまで飛べなかったということだろう。

 事故機は現場で修理の末、5日後の7日昼前に自力飛行で普天間基地に着陸した。幸い人的被害はなく、火災の発生もなかった。米軍基地の被害に遭うことのない富山では、不時着で被害が少なくてよかった、と思うのが一般的かもしれない。しかし、度重なる米軍機事故に遭遇している沖縄の人々にとっては、そうはならない。過去の墜落事故の惨事や落下事故・不時着事故が脳裏に浮かぶ。今回も、日米地位協定の問題が指摘された。

 普天間基地や嘉手納基地では「航空機騒音規制措置」(騒音防止協定)によって午後10時から翌朝6時までの飛行は原則禁止されている。しかし、米軍が「運用上必要とする」場合はこの限りではない。この抜け穴ゆえに、夜10時を超える飛行が常態化している。今回の不時着も午後10時45分ごろに発生した。もし、事故なく飛行すれば、午後11時過ぎに普天間基地に着陸するはずだ。住民にとってはたまったものではない。普天間基地では5月前半だけでも、4日・6日、11日・12日にMV22オスプレイが夜10時を超えて飛行している。宜野湾市大謝名や新城、野嵩などで最大90デシベル前後の騒音が確認されている。90デシベル(きわめてうるさい)は、騒々しい工場の中や5m離れた犬の鳴声と説明される。

 事故機が不時着した畑では、スイカの収穫が終わり、9月からのニンジンの植え付けに備えて耕していたという。現場周辺には二重の規制線が張られ、機体に近い内周規制線近くを警察が警備し、外側の規制線の傍で住民や報道関係者が事態を見守った。うるま市長も規制線の外で事故を確認した。日本政府が内周規制線内への日本側の立ち入りを求めることはなかった。事故原因究明のために、日本側が事故機を捜査することもできないまま、修理用部品や人員を輸送する米軍ヘリだけが規制線内に出入りした。2004年、CH53D大型輸送ヘリが沖縄国際大学構内に墜落した時と基本的に変わらない光景がまた繰り返された。

琉球大学の山本章子准教授は、日米地位協定3条で米側に基地内の管理権を認め、合意議事録で基地の外にまでその権限を拡大しているからだと指摘する。それだけではない。地位協定第17条第10項の合意議事録では、<日本国の当局は、・・・所在地のいかんを問わず合衆国軍隊の財産について、捜索、差し押さえ又は検証を行う権利を行使しない>と合意している。つまり、米軍が同意しない限り、基地の外に不時着あるいは墜落した機体であっても、日本側は事故原因究明のための捜査も差し押さえもできないのである。この理不尽に対し沖縄県は2017年9月、日本政府への要請書でこれらの改善を求めている。

 米軍は今回の不時着事故について、事故機はキャンプ・シュワブで「通常の訓練」をして普天間基地へ帰る途中に機体の警告ランプが点灯したため「安全を確保するために予防着陸した」と説明する。「予防着陸」なのだから、何ら問題ないと言わんばかりだ。沖縄県は、原因究明が終わるまで同型機の飛行停止を求めたが、日本政府の反応は鈍い。米軍は機種の問題ではなく、あくまでも機体の問題だとして、飛行停止には応じない。



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