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《コラム》沖縄のいま⑹~沖縄慶良間諸島での再度の米軍機超低空飛行訓練

防衛相は容認、沖縄は恐怖と怒り


 米軍機の低空飛行は沖縄だけでなく、長野県や四国地方など各地で目撃されている。沖縄の慶良間諸島では1月6日、渡嘉敷島、座間味島、阿嘉島で爆音をとどろかせて低空飛行する5機編隊の米軍機が目撃された。昨年12月28・29の両日にも米軍機の編隊低空飛行が目撃されたばかりだ。


 5機は渡嘉敷港の上空100㍍付近を超低空飛行し、標高110㍍の城島との間を抜けて旋回を繰り返した。島に突っ込んでくるのではないかと住民は恐怖を抱いた。座間味島から阿嘉島へフェリーで移動中の住民は、船を標的にしているような飛び方だと感じた。低空飛行は何度も目撃しているが、今回は特に低く飛んで圧迫感があったという。

 翌日、嘉手納基地所属の米空軍第353特殊作戦群は、MC130J特殊作戦機の編隊飛行訓練であることを認めた。地元紙の取材に、「編隊飛行の訓練で大量の地上部隊や装備品、補給品を移動させる能力を使う」と説明。「日米両政府間の合意と規制に沿って指定された空域で実施している」とも述べた。MC130Jは、敵陣や敵が支配する区域に入り込み、部隊や装備を輸送するという。

 沖縄周辺には米軍の訓練空域や水域がいくつも設定されている。ところが、慶良間諸島は訓練空域や水域になっていない。だが、米軍は訓練空域外の慶良間諸島で低空飛行訓練を実施している。公開されていない日米政府間の「合意」が存在するのかと疑念が湧く。

 岸信夫防衛相は8日、「パイロットの技能の維持向上を図るうえで必要不可欠な要素であり、日米安保条約の目的達成のための重要な訓練だ」と述べ、訓練空域外での米軍の飛行訓練を容認する発言をした。また、今回の訓練を低空飛行とは認めなかった。住民の側からしたら、「日米安保の犠牲になれ」と言われているようなものだ。激しい爆音を伴い、墜落の危険がある低空飛行訓練を民間地上空で行うのは、そこを敵地に見立て、住民を敵対勢力と見做しての訓練と思われる。それを容認する日本政府には、住民の安全や生活を守る考えなどみじんもないのか。誰のための「安全保障」なのだろう。

 日米地位協定には「訓練」に関する規定はない。一般的に、日米地位協定5条の米軍施設・区域の「出入り」や「移動」の自由を根拠に、米軍機の民間地での飛行訓練が実施されていると考えられている。米軍機は日本の空のどこを飛んでもかまわないことになる。また、米軍には日本の法律は適用されない。安全飛行高度を定める航空法も適用除外だ。人や家屋のない地域での最低安全高度は「平均(・・)150㍍」と定めるが、オスプレイ導入時の海兵隊の訓練マニュアルでは最低高度60㍍での訓練が求められている。識者らからも、訓練を規制できない日米地位協定の欠陥が指摘されている。

 14日、沖縄県議会米軍基地関係特別委員会(軍特委、照屋守之委員長)は、慶良間諸島周辺における米軍機の低空飛行に抗議する委員長声明を全会一致で可決し、岸信夫防衛相の発言について「誠に遺憾だ」と明記した。日米地位協定の抜本的改定や住宅地上空での訓練中止を求めている。県も低空飛行の停止などを関係機関に要請するという。


沖縄戦の記憶と軍用機の低空飛行


 慶良間諸島は76年前の沖縄戦で米軍が最初に上陸した地だ。座間味島、阿嘉島、渡嘉敷島の各島には㋹(マルレ)と呼ばれる特攻艇部隊である陸軍海上挺進戦隊と海上挺進基地大隊が置かれた。軍作業のため、朝鮮半島からも多くの軍属が動員された。日本軍が駐留する島には慰安所も設置された。住民とほぼ同数の軍隊が駐留し、16歳以上の男性は軍に徴用され、女性たちも軍に動員された。閉ざされた島での軍民同居は、スパイ容疑での住民虐殺や強制集団死(「集団自決」)の悲劇を生み、その後の沖縄戦の実相を示した。日本軍が駐留していなかった島では集団死は起きていない。

 2005年、座間味島の元戦隊長らは「自決を命じていない」「住民の集団死は愛国殉国による」と主張し、『沖縄ノート』の著者大江健三郎氏と岩波書店を名誉棄損で訴えた。2007年、高校教科書の検定において文科省は、軍の命令について裁判中であることを理由に、「集団自決」は軍の命令や強制であったという記述に対して意見を付け、それらの記述が削除や修正される事態となった。

 沖縄戦の記憶が生々しく残る県民は激しく抗議し、2007年9月29日には11万人が結集する「検定意見撤回県民総決起大会」が開催された。この裁判は2011年春、大江氏と岩波書店の勝訴で終結した。しかし、検定意見は撤回されず、その後も強制集団死(「集団自決」)に軍の命令や強制があったことは教科書に明記されていない。

 沖縄戦から76年目を迎えたが、沖縄戦の記憶はなお住民の心の深層で疼き、居住地を低空で飛行する軍用機はその記憶をよみがえらせる。沖縄戦では本土防衛のための「捨て石」とされ、今は日米安保の下での「犠牲」を強いられている。これが理不尽でなくて何であろう。                      (2月オピニオン/文責:小原悦子)


( 琉球新報より)低空飛行する米軍機とみられる機体=12月28日午後、座間味村阿真の神の浜展望台(宮平譲治さん撮影)


(下の記事:琉球新報 2021年1月7日1面)



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