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アルビス、移動スーパー「とくし丸」展開へ。ここから時代を読んでみる。 

更新日:2020年5月16日

 北日本新聞3月17日朝刊で報じた人事異動の、小さな1行である。しかし、さりげない1行に時代の動きが詰まっている。高齢化に過疎化に人口減、そしてライバルとの競争激化とアルビスに立ちはだかるハードルは高い。加えて仕入れで頼る三菱資本の意向は日増しに発言力を増している。地方紙に期待したいのは、小さな片隅の何気ない「なぜ」「どうして」に対応して、大きな世の中の動きを読者に察知させること。炭鉱夫たちが奥深い坑道にカナリアを持ち込んだように、カナリアのような嗅覚を読者は待っている。

移動スーパー「とくし丸」

 まず、移動スーパー「とくし丸」とは何か。徳島県でタウン情報誌「あわわ」を立ち上げて40万部超を記録したこともある住友達也が、2度目の起業で立ち上げた。徳島の田舎に住む母親の買い物の苦労をどうにかできないかと考えたのがきっかけだが、タウン誌の苦境から抜け出す窮余の策でもあった。さしずめ富山だと、タウン情報とやまが打って出たということ。徹底した現場感覚はタウン誌で鍛えられたのだろう、リスク回避の小資本がポイントとなっている。地元スーパーから仕入れて、残れば返すという委託販売システムだが、これだと売れ残りリスクはない。もうひとつは、個人事業主での販売パートナー制度。軽トラック1台が冷蔵設備含めて約350万円程度だから、ハードルは低い。エリア内ほぼ200軒のお得意を3日に1回巡るという計算で、月25日稼働、平均日販6万円と想定している。車の償却5万円を計上して、手取り25万円以上が可能になる。加えて1品に10円プラスすることで、買い物難民も負担する。近江商人の三方よし=(売り手よし)×(買い手よし)×( 世間よし)が成立している。特筆したいのが行政の支援を受けていないこと。

 2012年の創業で軌道に乗せ、全国展開を視野にいれた時点での16年、上場企業のオイシックスの傘下に入っている。これによりイトーヨーカ堂をはじめ、多くのスーパーが参入している。

 富山県内では既に4年前から砺波バローレが展開しており、そこで実績を積んだ古沢さんがアルビスに転じて、この4月から新庄店を皮切りに展開していく。経営戦略としてみれば、買い物難民は都市部にも多く、可能性は大きい。大阪屋との実店舗での出店競争から、コストのかからない移動スーパーでの販売で先手を打っていこうということも見て取れる。

個人事業主という働き方

 もうひとつの視点だが、個人事業主という雇用関係を結ばない働き方だ。販売パートナーとなる個人事業主システムを採用することで、出店費用、人件費という固定費を負担しないで売り上げを伸ばせる。雇用にこだわらないということであれば、既に体重計のタニタが社員と業務委託契約を結んで、雇用契約を解消し、個人事業主として契約、既に26人がこれに応じて独立している。年金や退職金に相当するものはきちんと払い、手取り収入は社員時代より増えている。タニタの社長の思いだが、仕事をやらせるという受け身ではなく、自発的な意欲と雇用に拘束されない自由さがほんとうの仕事を創造し、伸ばしていくとけれんみはない。

 しかし、この潮流には大きな懸念も存在する。個人事業主となれば、規模は小さくてもれっきとした経営者。その自由度から魅力的に語られるが、潜むリスクは大きい。とくし丸の場合、徳島の本部とアルビスと2社との契約となる。不当な契約条件ともなれば、セブンなどのコンビニ訴訟に見られる悲惨さが現実となる。

 悩んでばかりいられない。コロナ禍は「貧困の津波」をもたらすという。雇用条件の悪化は眼に見えている。それでも、ブラック企業で命を削って働くしかないのか。もうひとつの選択肢はスペインにあるようだ。「雇用なしで生きる」(岩波書店)をルポした工藤律子の著書。政党ポデモスがこの旗を掲げ、連帯経済の試みを訴えている。とくし丸を本当に独立した協同組合にして、対等な交渉をする手もあるような気がする。

 さて、いささか無責任な夢の話に聞こえるが、ここで終らせてはいけない。問題提起があれば、読者、あるいはそれに応える当事者、識者などが紙面でやり取りすることがあっていい。購読者の目は肥えてきている。いつまでも朝乃山でごまかされはしない。社員ジャーナリズムの限界を抜け出す緊張の試行錯誤をやってほしい。マスコミの再生には、これほどの覚悟が求められている。

                         (5月Opinion/文責:甲田克志) 



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