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「慰安婦」報道と日本メディア    -正義連の会計「不正」疑惑と運動方式をめぐって-

 韓国政府は1930~1945年に日本軍「慰安婦」に動員された被害者を約8万~20万名と推定する。 うち約2万名が生きて帰ってきた。 政府登録の被害者はわずか240​名​、あとは「​無言​」で生存しているか、「無名」で死亡したと考えられる。 6月4日現在、生存者は17名、平均年齢は91歳。彼女たちが望む尊厳の回復には、ほんとうに時間がなくなってきた。

 5月7日、生存者の一人であるイ・ヨンスさんが、記者会見を開いた。この30年近く、ともに活動してきた「正義記憶連帯」(旧・挺身隊対策協議会)に対して、支援金の使途や会計処理、水曜集会という運動形態、また、正義連は被害者を利用したと批判した。長年挺対協のリーダーとして運動をけん引してきたユン・ミヒャンさんが国会議員に当選した後だった。

 「慰安婦」運動の最初は、「慰安婦」被害当事者と支援者との出会いと関係づくりであった。フェミニズム運動を背景にもつ正義連を中心とした支援者とともに、被害当事者は自らが経験した性暴力を一般的な被害にとどめず、これを戦争性犯罪と規定し、日本の責任を問い​、​ 日韓関係を超えて「女性の人権」問題として​問うた。​さらに、世界の戦時紛争下の性被害女性とともに、性暴力を告発、防止する運動を進める人権活動家となっていった。一方、正義連は、民族対民族、国対国ではなく、「女性の人権」問題として、国連をはじめ人権を重んじる欧米の国々へと解決を訴える活動を広げていった。そして、「慰安婦」被害者と支援者で基金をつくり、地域紛争下のアフリカやベトナムでの被害者支援に乗り出した。

今回正義連を告発したイ・ヨンスさんもそうした活動を先頭に立って進めた人の一人だが、彼女は自分が利用されたと言っている。名乗り出たとき、「友人の話だが・・・」とイ・ヨンスさんは切り出したというが、それを最初に聞いたのはユン・ミヒャンさんだという。イ・ヨンスさんは正義連には入らず、自立しつつ活動をともにして30年過ぎた。直接的にはユン・ミヒャンさんが国会議員になることに反対していたと聞く。

それにしても当事者と支援者の関係はむずかしい。また、公正な金銭管理、目的とテーマに合った運動形態、当事者がいなくなる状況下での運動の継承など、意見は多様でもできることは限られている。現在、正義連はイ・ヨンスさんとの関係を含めて、従来の活動を点検し、事態を検証し、改善したいと言っている。ここに、「慰安婦」問題解決運動そのものをなかったことにしようと、保守・右派が右派メディアや運動団体と結束して批判の雨を降らせているのが現状である。

 いまも、正義連の会計「不正」疑惑と運動方式をめぐって報道と議論が続いている。そして、「慰安婦」問題を越えて、文在寅大統領に象徴される進歩派と保守派との対立を背景に、各々を支持するメディアが対抗して報道を繰り広げる「政争」となっている。これに知識人が意見を投稿して、「慰安婦」問題や今回の事態をどう理解し、解決するのかといった論評が行われている。この論争を一言でいえば、当事者であるユン・ミヒャンさん自身が言っているように「曺国(チョ・グク)事態 」に似ている。文大統領は第三者としてはありえず、正義連が支出の透明性確保に向けて努力するよう求める一方、30年続いてきた運動は「人間の尊厳を守り、女性の人権と平和に向けた一歩」と評価して「運動の大義は堅固に守られなければならない」と述べた。(6月25日)

かつて、日本の一部テレビメディアは、「曺国事件」をその本質を説明することなく興味本位に取り上げ、裏もとらず容疑の段階で事実のように報じ、さらに類推して報道をエスカレートさせていった。当時は視聴者をバカにしているとあきれ返っていたが、いままた右派の論客ばかりをそろえて同じことを繰り返すメディアもある。テレビ報道では視聴率を稼いでなんぼと聞くが、本当なんだろうか。隣国の政争や事件は知る必要があるが、事実を曲げて面白おかしく報じることで、かえって国際関係を悪くする。自らの倫理さえ貶めるメディアは消えても仕方ないのではないか。

新聞に関していえば、リベラルと思われている新聞が韓国の右派系といわれる新聞(朝鮮日報、東亜日報など)をニュースソースとしている。駐在記者もいるのに、なぜ右派系新聞なのか理由がわからない。自ら取材、検証できないようなら報道しないほうがいい。(私は1紙しか見ていないが、4紙ともにそうだと書いている人もいる)

自己批判も書いておく。こうして文章にすることはあっても、批判的な意見を直接メディアに伝えることは少ない。専門家による批評は報じられるが、届けられた一般読者の意見が内部でどのように対処されるのかわからないことが原因だと思う。現状のままでは、声を上げないように飼いならされているように思う。これを見える化することで、改善の方策が具体化されるのではないか。このままでは、市民もメディアも変わりようがない。 

                          (6月Opinion/文責:堀江節子)

【おまけ】6月22日、軍艦島の日本近代化遺産を取り消すように韓国政府がユネスコに訴えたとNHKが報道していたが、指定を受ける際の条件(戦時中に朝鮮半島出身者が強制労働をさせられたことを明記する)を日本が履行しないことが理由だと伝える報道を見ていない。自国政府の主張だけを流すことで、韓国への批判を高める一例である。


≪正義記憶連帯問題を報じる主要全国紙の切り抜き≫

≪正義記憶連帯問題の検索記事数(5月から6月25日まで)

   ・読売新聞 11件

   ・朝日新聞 16件

   ・毎日新聞 9件

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