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「徴用工判決は国際法違反か」

更新日:2020年2月1日


~10月24日に行われた日韓首相会談を伝える10月25日の読売新聞の一面記事の見出しについて~

 (なおこの「徴用工判決」とは2018年10月30日に韓国大法院が下した「日本製鐵徴用工事件再上告審判決」をいう)


徴用工判決「国際法違反」(安倍首相)(同日の社説には「文政権は国家間の約束守れ」を掲載)


 新聞、テレビ報道はこれでいいのかとあらためて問いたくなる見出しであり記事だ。  

 疑問点などの批判的視点も触れることなく、政府の考えをそのまま載せていいのか。当判決を国際法違反と果たして簡単にいえるのだろうか。

 日本政府主張の国際違反の論拠を、メデイア自身が調査し報道するか、または安倍首相に論拠の説明を促すべきだ。


 なお、この「徴用工判決は国際法違反」の見出しは読売だけでなく、森友・加計問題では政府批判の急先鋒であったリベラル紙の一つ朝日新聞もこの問題については、なぜか政府見解を大きく取り上げる見出しで記事が掲載する共通の傾向があることも確認しておきたい。

《19年8月28日朝日新聞デジタル》

 菅氏「最大の問題は元徴用工」 国際法違反の解消求める


 いくつかの疑問点を挙げてみる。

1、三権分立と司法権の独立の視点から

 近代民主主義国家においては、権力分立、司法権の独立は基本的な政治原理であり、司法が行政・政府に従属しないのは法理である。裁判官は憲法と法律、自己の良心にのみに従って判断さえすれば良いのは中学・高校の社会科を習った普通の日本人ならば誰でもわかることだ。


 それゆえたとえ日本との協定内容とは違う、判決が出たからといって、2018年「徴用工判決は国際法違反」と、日本政府が韓国政府に裁判所判決への変更干渉を求める批判をしていいのか。個人と企業間での紛争に国として批判し、相手国に制裁を加えることは許されるのか。


2、請求権協定で消滅できない「個人請求権」

 現在の日本政府が昨年の徴用工判決後からこの間繰り返し強調している1965年の日韓請求権協定2条「両国および国民の間の請求権に関する問題が完全かつ最終的に解決した」という合意内容は、協定締結後の日本側の解説書はもとより,1991年8月27日の外務省条約局長の参議院予算委員会での発言では「完全かつ最終的に解決」とは日韓両国が外交保護権を放棄するという意味であり、政府を通じないで外国に賠償を要求する個人の請求権を消滅させることでないと述べており、しかも今回の徴用工訴訟は個人請求権に基づく企業に対する不法行為への賠償を請求する民事訴訟だ。


 請求権協定第2条「請求権に関する問題が完全かつ最終的に解決した」でもって、韓国徴用工被害者が提訴した判決を一方的に「国際法違反」と批判することはできないのでないか。

(外交保護権とは国民が外国から不当な扱いを受け、その被害が相手国から救済されないとき、被害者の国が相手国に賠償を要求する権利)


3、日韓基本条約・日韓請求権協定の締結時の韓国の政権は朴正煕軍事独裁政権

 当時の韓国は軍事独裁政権下で、韓国市民の人権が保障されているとはいい難い状況であり、その時に成立した協定を根拠として、植民地支配時代の人権侵害の救済を求める原告徴用工被害者の請求を認めた判決をその人権侵害を行った加害企業側の国である日本が批判することは果たして、人道的・道義的に許されるのか。


4、国際人権規約b規約違反は日本?

1966年に国連で採択され、76年に効力が発生した国際人権規約b規約(市民的および政治的権利に関する国際規約)には、第2条3項「この規約において認められる権利または自由を侵害された者が、公的資格で行動する者によりその侵害が行われた場合にも、効果的な救済措置を受けることを確保すること」や、徴用工問題に関しては第8条3項(a)には「何人も、強制労働に服することを要求されない」が書かれており、日本は1979年国会承認し遵守義務を負っていることから、韓国の徴用工被害者は日本国に対して救済を求める権利があるのは明白である。(注1)


 日韓請求権協定でもって2018年徴用工判決を批判はできないのはもちろん、逆に徴用工被害者の救済を拒もうとしている日本政府自体が国際人権規約b規約違反だと非難されるのではないか。


最後に判決文を読んで

 2018年徴用工判決文で注目したいのは、その多数意見の日本による「植民地支配と直結した不法行為による損害賠償請求権は(日韓)請求権協定に含まれない」という主張で、その論拠を詳しく論じている点だ。


 アジア太平洋戦争後サンフランシスコ平和条約によって日本は独立を果たすがその条約には韓国は含まれず、日本が独立後韓国との講和条約である日韓基本条約および日韓請求権協定が結ばれるまで10数年かかったが、その理由の一つに、日本が植民地支配の歴史の認定と謝罪を回避し続け、その責任を曖昧にしようとし続けたからでもあった。(注2)


 日韓基本条約・日韓請求権協定が結ばれてから54年。その植民地支配への反省への曖昧さは解消されることなく、今や嫌韓本などの歴史修正主義の雑誌や本が書店に多数並ぶ。以前ならば考えられない歴史を改ざんすることに痛痒も感じない時代になってしまった。

2018年判決文を読んだが、正直、その内容に問題点やおかしさを感じられなかった。

 判決文を読めば、社会的正義がどちらの側にあるのかを判断することはそれほど難しいことではないと思う。


 メデイアに携わる人には、現政権の判断に左右されることなく、最低限、判決文に書かれた事実認定もされた、原告元徴用工の被害実態を含めて、素直にその判決文を読んで欲しい。判決文を読んでのもうひとつの感想だ。

   

参考資料

・(注1)「日韓関係を破壊する安倍政権」浅井基文著/マスコミ市民2019年10月号所収

・(注2)「日韓条約の今日の問題点」山田昭次著/雑誌「世界」臨時増刊567号所収

・2018年徴用工(日本製鐵徴用工事件再上告審)判決文は、「徴用工裁判と日韓請求権協定」((現代人文社)に掲載されていたものを読みました。

                       ( 11月Opinion/ 文責:大島俊夫)

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