石垣市自治基本条例に関する事項
2018年
10/31 住民投票条例請求の署名活動(~11/30)
12/20 有効署名1万4263筆が確定⇒市長に直接請求
2019年
2/1 石垣市石垣市議会で住民投票条例案が可否同数。議長採決で否決
3/1 石垣市石垣市平得大俣への陸自配備に向け、駐屯地造成工事が着工
3/18 石垣市議会、「石垣市自治基本条例に関する調査特別委員会」を設置
6/17 野党市議提案による住民投票条例案が再度否決
9/19「住民投票を求める会」が義務付け訴訟を那覇地裁に提訴
11/26「自治基本条例に関する調査特別委員会」が自治基本条例を廃止すべきとの結論を出す
12/11 市自治基本条例廃止条例案が与党会派9人により議会に提出
12/16 自治基本条例廃止案は賛成10、反対11で否決
2019年12月16日、沖縄県石垣市議会12月定例会最終本会議において、市自治基本条例の廃止条例案が賛成10、反対11で否決された。その直後、「あんたら(報道各社)に、負けたよ」。廃止条例案提案者の石垣亨氏(自由民主石垣)は一言漏らして与党議員室のドアを締め切った(琉球新報12/17)という。石垣氏の言い分はあながち負け惜しみではないだろう。
石垣市自治基本条例は2009年に沖縄県内で初めて制定され、2010年4月から施行された。現市長の中山義隆氏は2010年3月に就任している。市自治基本条例には情報共有、市民参加、協働、多様性尊重などの理念が掲げられている。自治体の憲法ともいえる自治基本条例の唐突な廃止案。危機感が走った。根底には、陸上自衛隊ミサイル部隊の石垣島配備問題がある。
🔷陸自配備の賛否を問う住民投票を求める署名1万4千筆超
2018年10月31日、「石垣市平得大俣への陸上自衛隊配備計画の賛否を問う住民投票を求める会」(以下、「住民投票を求める会」)は石垣市自治基本条例28条1項を根拠に住民投票を求める署名活動を開始した。署名を呼び掛けたのは、マンゴー農家の金城龍太郎氏(29)ら若者たち。12月20日、有権者数(38,799人、18年12月現在)の4分の1(9,699人)をはるかに超える1万4263筆の有効署名数が確定した。自治基本条例28条では有権者の4分の1以上の署名で住民投票の請求があった場合、「市長は所定の手続きを経て、住民投票を実施しなければならない」と規定している。ただ「所定の手続き」の具体的内容が定められていない不備があることから、住民投票を求める会は、有権者の50分の1以上の署名と議会の議決を必要とする地方自治法74条1項に基づいて直接請求した(琉球新報8/5)。市長は同25日、12月定例市議会最終本会議に条例案と予算案を提出した。
2019年2月1日市議会臨時議会において、住民投票条例案が賛成10、反対10、退席1の可否同数となり、議長採決で否決された。中山義隆市長は議会後、「否決ということで実施できない。市議会の判断を尊重する」と強調。「配備については石垣市として認める形で動いている。市民に情報を伝えながら理解を求めていきたい」と述べた(沖縄タイムス2/2)。市は、この時点で住民投票条例制定の請求手続きは終了したとした。
🔷陸自駐屯地の造成工事開始
3月1日沖縄防衛局は、石垣市平得大俣への陸自配備に向けて、駐屯地の造成工事に着工した。1万4千筆超の市民の意思が宙に浮いたまま、自衛隊配備へ動き出した形だ。
これを放置することは許されないと、市政野党議員側は6月に、議員提案として住民投票条例案を再提出した。しかし、賛成8、反対11、退席1、欠席1で再度否決された。
🔷住民投票義務付け訴訟提起
「住民投票を求める会」は9月19日、住民投票実施義務の履行を求める義務付け訴訟を那覇地裁に提起した。訴状で「(石垣市は)住民投票を実施すべき義務を負っているのに実施しないでサボタージュをし続けている。このような事態を放置すれば、石垣市民は、政策意思を表明する権利を行使する機会、投票する権利を行使する機会を日々奪われ続けることになる」としている(八重山毎日新聞9/20)。
第1回口頭弁論は11月19日那覇地裁で開かれ、12月24日には第2回があった。
●住民投票実施義務付け訴訟 那覇地裁で第1回口頭弁論(11/20八重山毎日新聞)
🔷石垣市調査特別委員会、市自治基本条例の廃止を結論
一方、3月の市議会で設置された「自治基本条例に関する調査特別委員会」は11月26日、自治基本条例の廃止を結論付けた。調査特別委員会は、「(条例に)いくつかの不備がある」として設置されたものだが、野党側は委員構成に加わらなかった。10人の委員のうち、公明党1人を除く9人の委員が廃止に賛成した。このころから報道が活発になる。
●自治条例廃止、市民投票が“標的”に?住民投票の根拠条例、廃止を求める働きが訴訟に影響も(11/27琉球新報) https://ryukyushimpo.jp/news/entry-1032520.html
●“自治体の憲法”を廃止? 「自治基本条例の廃止を」石垣市議会の調査特別委が結論「いくつかの不備がある」
●自治基本条例の廃止を議会が求めることの何が問題か(11/28同)
●社説 自治条例廃止の動き 理念まで全否定するのか(11/28同)
●「廃止ありき」疑問も 石垣市自治基本条例 与党、条項の不備強調 市政野党の反発必至(11/28同)
●本紙入手の会議録で判明…石垣自治条例、廃止ありき(12/4沖縄タイムス)
これらの記事では、調査特別委員会が開かれたのは5回だったことや関係者から聞き取った特別委での意見を報じた。国や県との対等関係確保という基本理念などに対し、「(自治体は)地域における事務などを処理すると定める地方自治法の規定に抵触する」など、地方自治を後退させる意見が多く出たこと。また、「廃止ありきだった」との声が内部から漏れたとも報じた。住民登録された人以外も「市民」と規定する条項を問題視する意見もあったことについて、識者談話を取って反論した。「住んでいるという事実があり本人が生活の拠点としているという意思があれば住民であり、外国人も地方自治法上の住民だ。……外国人が自治体の行政に参加するのは、広く認められていいことだ」(仲地博氏・沖縄大学前学長)(12/3新報)。
沖縄タイムスは会議録を入手。5回の会合でわずか5時間の議論だったこと、3回(9/17)の審議で一気に廃止への流れになったこと、「住民投票を規定されたら地方自治が大変な状況になるんじゃないか」「最高規範の重みがない。早い段階で効力停止するべきだ」、5回目(11/26)の最終回では、自衛隊配備に関連し「国の責任においてやるものなので、反対の方向に行くと国家の崩壊につながりかねない」との露骨な発言があったことを報じた。これに対して、「自治条例は自治体の指針。住民参画をうたい、せっかく作ったものを与党の都合で無くしてしまおうというのは問題だ。時代に逆行し、自治の後退につながる」(照屋寛之・沖縄国際大学教授)(12/4タイムス)など、紙面において自治基本条例の理念が語られ、不備な点は充実・発展させていくべきであり、廃止はあり得ないとの意見が繰り返し述べられた。
🔷市政与党により自治基本条例廃止案が市議会に提案
しかし、石垣市議会与党議員9人は、12月11日付けで市自治基本条例廃止条例案を議会に提出した。ところが、同条例43条2項は「見直しにあたっては、審議会を設置し、諮問しなければならない」と定めている。条文には「廃止」という直接的な文言はない。しかし、議員構成から廃止案が可決されるという危機感があった。
●廃止提案、条例に違反か 野党「審議会設置が義務」(12/15琉球新報)
📷「見直しでも審議会設置が義務付けられているのに、廃止であればそれ以上の手続きが必要なのは当然だ。議員提案の場合でも、市民からの意見聴取など…丁寧な手続きを踏まないといけない。今回の提案はあまりにも拙速すぎる」と野党議員は批判した(12/15琉球新報)。
市民も座していなかった。本会議最終日を前に12月15日夜、条例の制定に関わった3氏を講師に学習会を開催した。また、12月定例会最終本会議当日、市民は廃止案の白紙撤回を求めて市役所前でアピール行動を繰り広げた。
●「世界の恥」と市民に危機感 2年半かけて議論、策定した「自治体の憲法」の廃止(12/16琉球新報)
●石垣市議会、最終本会議始まる 市自治基本条例の廃止条例案採択へ 開会前、市民が白紙撤回求める(12/16同電子版)
本会議において廃止案は1票差で否決された。鍵を握った与党の非自民系議員3人のうち2人が反対に回った。提案者の石垣亨氏は最高議決機関は議会だとして審議会設置の必要性を否定した。「条例がなくなっても多くの住民には関係ない」とも発言。住民投票をはじめとした市民の政治参加の根拠となる自治基本条例を廃止することで、市民の政治参加を避けたい思惑を顕著にした。
●「条例なくても住民に関係ない」 市議から人権軽視の発言相次ぎ…市民から批判とあきれ顔 自治基本条例廃止案否決には拍手と歓声(12/17琉球新報)
●石垣市自治基本条例廃止提案 市議会が否決 賛成10、反対11(12/17同)
●<社説>自治条例廃止を否決 自治の推進を貫くべきだ(12/17同)
自治基本条例廃止案は否決されたが、石垣市議会自民会派は今後、自治基本条例に変わる条例案を提出する構えだ。予断は許されない。
国の政策であれば地方はそれに従わなければならないのか。日本国憲法の地方自治の理念は、戦前の苦い体験を二度と繰り返さないために、国⇒地方という支配体制を変革するために導入された制度だ。戦後75年になって、それを否定する動きが出てきている。地方自治を推進するためにも、市民の目・耳としての地元メディアの重要性は増す。
(1月Opinion/文責:小原悦子)
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