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エンターテインメント化する自衛隊広報戦略とブルーインパルス報道

更新日:2021年5月20日

斎藤正美    


 菅首相は、中国を敵視する方針の米国に同調し、日本の防衛力のさらなる強化を約束して帰国した。米中が衝突したらフロントラインは間違いなく日本列島だと重く沈んだ気持ちになっていた4月22日、私が住んでいる高岡市の上空に戦闘機の爆音が響いた。

 航空自衛隊の宣伝部隊ブルーインパルスの富山飛行だ。砺波陸上自衛隊基地の拡張工事が完成したことを祝い、富山の上空を飛んだ。なんといっても戦闘機である。六機が至近距離に連なって上空を飛んでくるだけで、その爆音は戦争を想起させるに十分なほど、日常では聞くことのない轟音として耳に響いた。肌感覚で恐怖を感じた。

 しかしその夜のTVニュースでは、私が期待したような報道はほぼなかった。BBT富山TVは、ずっとはずんだ声で興奮気味にイベントを伝え、KNB北日本放送は5分の長きに渡り詳細に取り上げた。チューリップTVも3分40秒にわたり盛り上げた。NHKは、全国放送で大きく取り上げた。なお、チューリップTVがコロナ蔓延の中での大型イベントで人が密集することへの疑問の声を述べ、KNBが、軍事に使われることがないようにという高齢女性の声を、キャスターが最後に付け加えていたことは記録しておきたい。

ブルーインパルスは、自衛隊が「航空自衛隊の存在を多くの人々に知ってもらうために」宣伝として行っているアクロバット飛行だ。高速で至近距離を飛ぶ危険な飛行であり、訓練も本番も含め、幾度となく墜落事故が起き、少なからぬ死傷者が出ているにもかかわらず、県民のみならず各地から多くの見物客が飛行を目の前で見ようと集まった。しかし、新聞もTVもチューリップフェアの宣伝だとか、医療関係者へのねぎらいの飛行だとかと述べる一方、自衛隊の「広報」という本来の狙いに触れるものは見られず、「カッコいい」「元気もらった」などと人々の感情を揺さぶる報道だった。戦時中も、人の声を媒介に情緒に訴えるラジオや紙芝居が国民の戦意発揚に大きく影響したことが思い出される。メディアによって感情を喚起され、軍を支持する国民が戦争を続行させたのだ。

 ブルーインパルスを報じるTVや新聞は、軍事が日常生活に入り込む恐ろしさを感じるのに十分だった。しかも、自衛隊は1990年代以降、ブルーインパルスによる航空ショー、艦艇公開のほか、アミューズメントパークの顔も持つ陸・海・空の大規模広報施設を作るなど、「エンターテインメント化」した広報戦略をとっているという(須藤遥子「エンターテインメント化する自衛隊広報ー大規模広報施設フィールドワークからの考察」『筑紫女学園大学人間文化研究所年報』28号、2017年:ネットで読めるのでオススメします)。

 実際、ブルーインパルスがそうだったように多くの市民が抵抗なく自衛隊の宣伝行事に参加しており、それと相まってか、近年では、自衛隊に対して「良い印象を持っている」割合が世論調査で92.2%(2015年)に上っている。驚くことに福井県では、2019年台風で中止になる前年2018年まで、陸・海・空自衛隊合同パレードが福井市内で経済団体らによる実行委員会の主催で毎年開催されていた。福井の軍事パレードほど明らかに軍事を前面に打ち出すイベントでは批判的な報道も見受けられるが、富山新港での護衛艦の体験搭乗などの「エンターテインメント化」したイベントでは批判的な報道は、ブルーインパルス同様、ほとんど見られなくなる。そうだとすると、自衛隊にとって、広報のエンターテインメント化戦略が奏功しているということになる。その一方で、こうした軍や国の情報戦に関する「軍事プロパガンダ研究」は、戦時期でほぼ途絶えており、現在はほとんどなされていないという(須藤2017)。

 メディア各社が陸上自衛隊基地の拡張工事の完成を祝うための飛行という事実に触れずに、自衛隊の広報戦略に、結果的に乗った形でただただ感動を盛り上げる報道をしていることに、国民に戦意を煽り、戦争に協力させ続けた「軍事プロパガンダ研究」に触れたことがある者として大きな危機感を持った。自衛隊のエンターテインメント化した広報戦略に、富山の報道各社が今後二度と乗ることがないように、多くの目でウオッチしていきたい。 

                     (5月オピニオン/ニュースレター15号掲載)


上の画像は富山テレビがユーチューブにアップした映像からとりました。https://www.youtube.com/watch?ⅴ₌bSA8H75rreY  


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